本棚の中の小宇宙

日々読んだ書籍をネタバレ全開で語るブログです

彼女はもう死んでいるのに! (アイプロセレクション)  著者; 時計

恋しい人に、もう一度会いたかっただけ。

人間とアンドロイドが共生している世界。
16歳の人間の少年・朱(あか)は「新しく買ったヘルプロイドより不出来だから」という理由で親に捨てられた。
生きるためには働かなければならない。
そんな中で朱は、風変りな姉弟が住むというアパートの管理人の仕事を得る。
彼ら以外誰もいない広大なアパートで、姉・霞(かすみ)と弟・千秋(ちあき)との共同生活を始めることになった朱。
親に捨てられた傷は癒えないままだったが、穏やかに流れていく姉弟との日常生活の中で、朱は次第に安らぎを見出していく。
だがそんなある日、病弱だった姉の霞が突然死んでしまう。かけがえのない存在を失い、心の痛みにどうしても堪えることができない朱と千秋は「とある決断」をするのだが……?

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ネタバレ注意

 

ネタバレ注意

 

死者を蘇らせる話や、蘇らせようとする話は多くありそのほとんどが失敗に終わる。今回もそんな御多分に漏れずにそんな結末の話だ。
唯一違うのはアンデッドや死者蘇生といったオカルトな方法ではなく、死者に似せたアンドロイドを作ったという点
アンドロイド故に、見た目も記憶(故人のノート)も完璧にプリインストールされている彼女は最初は完璧に見えた。しかしながらやはり違うのだ。
細かいところ心の内部までは再現できていなかった。むしろ「霞」と「彼女」は別の個体だからこそ違うは当たり前であると思う。だからこそタイトルの「彼女(霞)はもう死んでいるのに!」というわけだ。
その意味で「彼女」を見ずに「霞」しか見ていない彼らも、死にゆく「霞」に「すぐに会える」と言った彼も全く持って失礼な事この上ない。そもそも「霞」が本物で「彼女」が偽物であると考得ている時点でダメだどちらも本物なのである。
根幹にあるのは「記憶や気持ちを言語化すると逆にその姿が曖昧になってしまう」であると作者はあとがきに記していた。私はそれを「そういう言語外の認識できない全を以って個である」ととらえたので上記のように「霞」も「彼女」も「個」であると思った。
アンドロイド(ロボット)に心があるのかを書くと長くなるので今回はここにて終了とさせていただきます。