【感想】命売ります (ちくま文庫)
目覚めたのは病院だった、まだ生きていた。必要とも思えない命、これを売ろうと新聞広告に出したところ…。危険な目にあううちに、ふいに恐怖の念におそわれた。死にたくない―。三島の考える命とは。
「ある日突然彼は人生に嫌気がさした、そして自殺しようとして失敗した。どうせならと彼は新聞に書いた「命売ります」と・・・」
衝撃的な設定で始まる本作は三島 由紀夫が亡くなる2年前に「週刊プレイボーイ」に連載していたものである。
主人公は特別何かがあったわけわけではなく何ともなしに死にたくなってしまった青年であり、彼は自殺に失敗した事を切欠に他人に命を売りその結果として死のうと考えて新聞に公告を出す。
そこから舞い込む不思議な依頼の数々、若い妻と一緒に死んでくれという老人・妖しい取引を代わりに行ってと願う中年女性、果ては大使館の陰謀や吸血鬼まで出てくる
そういう意味で荒唐無稽でエンターテインメント性にあふれている作品であった。
しかし、作者はあの三島由紀夫である。あの最期を知っているものからすればこんな小説だからこそ、その死生観を描いたのではないかと邪推してしまうのは私だけではないだろう。
「メメント・モリ」というラテン語の言葉を知っているだろうか?
「自分が必ず死ぬことを忘れるな」・「死を記憶せよ」という意味だ。
当初は死は平等にいつ来るかわからないからこそcarpe diem(今を楽しめ)という意味合いだった。
いつからか魂の救済という側面を持つようにもなり、それは来世を願う言葉にもなってしまった。
この主人公はまさに来世を強く願ってしまい狂った。
今生に未練がないからこそ自由に振舞えた。
しかし同じ今生を捨てた人間に"病気"をうつされもう一度狂い。元に戻ってしまったからこそ彼は行きたいと願ってしまった故の結末だったように思える。
文句なしに面白い作品であり人に奨めても問題がない作品である(人格を疑わえる心配がない)
機会があれば是非とも読んでいただきたい、読む人によって違った死生観がみれるだろう